スピルバーグ監督作品『アミスタッド』の事件とあらすじを徹底紹介

皆様、こんにちは。福です。

今回紹介する映画は『アミスタッド』です。19世紀に実際に起こった事件で、歴史を学べるいい映画です。

この先はネタバレを含みますので、ご注意下さい。

スピルバーグ監督作品『アミスタッド』

1839年にスペイン籍の奴隷輸送船で起こった乗っ取り事件と、それらの一連の裁判をアメリカ合衆国で行った実際の出来事をスティーヴン・スピルバーグが映画化しました。

第70回アカデミー賞で助演男優賞、撮影賞、作曲賞、衣装デザイン賞にノミネートされます。興行面では成功しませんでしたが、史実をちゃんと再現したと高く評価されてます。

スピルバーグ監督の傑作作品『シンドラーのリスト』に続く歴史映画と評価する程です。

画像出典:amazon

キャスト

登場人物 どんな人
シンケ 西アフリカから拉致された黒人。アミスタッド号に乗せられ、奴隷として扱われる。仲間からリーダーとして慕われており、とても勇敢な男。
ジョッドソン 奴隷から裸一貫で企業家となった黒人男性。奴隷解放論者でシンケたちの解放を求める。彼らに同情的で親身になっていく。
アダムズ かつて大統領だった人物で、現在は議員をしており、弁護士資格を持っている。ジョッドソンたちに助言をし、シンケの弁護をする。
ボールドウィン 上昇志向の強い若手弁護士。最初は金の為に弁護してたが、シンケと会話するうち、人間として救いたいと考える様になる
タパン 富裕層の奴隷解放論者の白人男性。奴隷制度の廃止には熱心だが、シンケたちを見ていない。
ビューレン 選挙しか頭にない現大統領。周りから色々言われ、裁判を混乱させてしまう。
ルイス アミスタッド号に乗っていた商人。
モンテス ルイスと同じく商人。シンケたちを騙してアメリカに連れていく。
イサベル2世 3歳でスペイン女王となる。13歳でアミスタッド号事件に対応し、アメリカに圧力をかける。
コヴィ 英国艦隊の海兵であり、黒人である。かつてシンケと同じ立場になりかけたが英国に助けられた過去を持つ。シンケの通訳を務める。

 

簡単に分かるアミスタッド号事件の内容

『アミスタッド』は実際にあったアミスタッド号事件を題材に製作されてます。映画のあらすじの紹介前に、どんな事件だったか説明します。

海上での反乱

スペイン植民地であったキューバのハバナにて、スペイン籍の商船ラ・アミスタッド号で53人のアフリカ人たちが反乱を起こす。

アフリカ人のシンケが自分の鎖を解いた後、仲間の鎖も解く。そして、船員たちに襲いかかる。

アフリカ人たちは船員のルイスとモンテスだけを生かして、アフリカに向かわせようとする。

しかし、ルイスたちはアフリカ人たちをだまし、アメリカ合衆国に向けて舵を取る。そして、彼らはアメリカ合衆国にて海軍に逮捕され、拘留される。

アメリカ合衆国での裁判

アフリカ人たちは反乱罪及び殺人罪として起訴され、アメリカの裁判所に提訴される。

しかし、今回の事件はスペインの領海内のスペイン籍船上で起きた行為のため、アメリカの管轄外とされる。その代わり、複数のグループがアフリカ人・船・積荷の所有権を巡る訴訟を起こす。

その中のスペイン政府がピンクニー条約に基づいて、全てをスペインへ返還すように求めた。

1795年にアメリカとスペインで結ばれた条約で、第9条は「公海上にて海賊、盗賊の手から救出された全ての船及び商品は、全て正しい所有者に返還される」と書いてる。

この条約のため、アメリカはスペイン政府の代理として所有者を提訴した。それに対して、奴隷廃止運動家たちは、アミスタッド協会を設立し、弁護のための資金と通訳を調達する。

彼らの主張は、1817年のイギリスとスペイン間の条約とスペイン政府の宣言によって、大西洋を横断する奴隷貿易は非合法であるという事だった。アフリカ人たちは奴隷ではなく、非合法な誘拐の被害者であり、奴隷だと示す書類は偽造だった。

裁判所は無罪判決を出し、アフリカ人たちを母国へ返すよう命じるが、政府の代理人によって即時抗告されてしまう。最高裁判所にて、前大統領の議員がアフリカ人たちの弁護を引き受ける。

その結果、アフリカ人たちは無罪を勝ち取り、自由を手に入れた。ただ、彼らはアメリカに売却目的で運ばれなかったので、母国の帰還費用は負担されなかった。

判決後から現在まで

スペイン政府はこの判決を不服として、20年間に渡り、賠償を請求し続けた。補償決議案も提出されるが可決はしなかった。

アフリカ人たちはアミスタッド協会の協力を経てアフリカに帰還した。その際、英語とキリスト教を学び、母国に布教本部が設置される。この裁判は注目を集め、奴隷廃止運動を前進させる結果をもたらす。

西暦2000年にアミスタッドのレプリカ船が造られ、裁判が行われた場所を母港とし活動している。活動内容は奴隷制、人種差別、公民権の歴史を広く伝える活動である。なお、市庁舎の脇には、シンケの像が建てられている。

 

『アミスタッド』のあらすじの紹介

シンケたちの反乱

この物語は奴隷制度が普通にあった時代、19世紀半ばで実際に起こった事件である。

アフリカ人奴隷をアメリカ大陸に送る貿易は大きな利益を生み、違法行為をする人たちもでてくる。

アフリカで平和に暮らしていた人々が、突然奴隷狩りを商売とする別の部族に囚われる。シンケもその中に1人であり、彼らは奴隷として扱われてしまう。

スペイン人のルイズとモンテスに買われたシンケと53人の仲間は、鎖に繋がれたままアミスタッド号に乗せられた。

長い航海の間、アフリカ人たちは船員に殴られ、食べ物もろくに支給されない状態が続く。食料不足を理由に、弱っているアフリカ人を鎖に繋いだまま海に突き落とす事をした。

そんな状況の中で、シンケは自分の手足を拘束している錠を外す事に成功する。仲間の錠を外したシンケは武器を手に入れ、船員たちを襲う。

船員たちを殺し、海に突き落としたシンケたちは船の乗っ取りに成功し、船の舵取り役として生かしたルイズとモンテスに「故郷に帰る。アフリカをめざせ」と命じる。

しかし、船が向かう先はアメリカだった。シンケと生き残った仲間39人は騙され、アメリカ海軍に捕まり、ニューヘイヴンに連行された。

彼らは手足に錠をかけられ、薄暗い牢屋に閉じ込められてしまい、海賊行為と殺人罪の容疑で裁判にかけられてしまう。

アミスタッド号事件に介入する人たちの思惑

選挙が近づいている中で、アミスタッド号事件が発生した。当時のアメリカ北東部はメディアが発達してたので、すぐに取り上げられる。

大統領補佐官は大統領ビューレンに「アミスタッド事件は国際的な問題になるので、対処が必要です」と訴えるも、選挙のことしか頭にないビューレンは補佐官へ丸投げした。

そんな中、この事件を奴隷開放・奴隷制廃止に向けて世論や政治を動かそうと意気込む2人の市民がいた。

1人は奴隷から身一つで成り上がった企業家の黒人ジョッドソンで、もう1人はビジネス界をリードする業界の資本を持つ富豪のタパンである。彼らは奴隷廃止を訴える新聞の共同経営者だった。

ニューヘイヴン地区裁判所にて、裁判が始まる。奴隷開放の理想に燃える2人は訴訟関係者として法廷に立つ。そこで目撃したのは、アフリカ人たちを商品として扱う集団たちが訴え合う現場だった。

「スペイン籍船であるアミスタッド号の積荷(アフリカ人たちも含む)を返せ」と要請するスペイン女王
「アフリカ人たちを買ったのは自分たちだから、所有する権利がある」と主張するルイズとモンテス
「アミスタッド号をつかまえた謝礼として所有権をよこせ」と主張するアメリカ人将校

ため息しかでないジョッドソンたちに追い打ちをかけるような事態が起こる。

遅れてきたアメリカ国務省の長官が「事件はアメリカとスペインの外交問題なので、裁判を地区裁判所から連邦国務省に引渡せ」と主張する。

裁判を聞いていた人たちの中に、ボールドウィンという若手弁護士がいた。彼の専門は財産権紛争で、この事件が所有権を争う民事訴訟となっていくのを興味深く見守っていた。

裁判は混乱していき、中断となった。彼は、法廷を立ち去るタパンとジョッドソンに弁護士として自分を売り込むが、「今必要なのは刑事弁護士で、民事専門家ではない」と断られてしまう。

タパンとジョッドソンは裁判に勝つため、アメリカで影響力を持つ人物を弁護士にするため、元大統領のアダムズに助力を頼み込むが拒否されてしまう。

アダムズは「奴隷制については、わたしは賛成でも反対でもない。君らの助けには応えられない」と言い、ジョッドソンは「あなたの現職時代の時は奴隷制の廃止を訴えてるはずです。アメリカにとってやり残した政治問題があるのではないですか?」と返答する。

アダムズは「ジョッドソン君、君は優れた歴史家で雄弁だね。だが、謙虚さが足りないよ」とジョッドソンを褒めながらも、言い過ぎだと言い返す。

断られた2人は仕方なく法廷で会ったボールドウィンを代理人として雇った。

自分の株を上げるチャンスを得たボールドウィンは、牢屋にいるアフリカ人たちに面会を求めて証拠を集めようとする。

しかし、英語が喋れない彼らと会話出来ず、アフリカ言語学者を連れてきたが役にたたなかった。

そして、裁判が再開する日がきた。

ニューヘイヴン地区裁判所での裁判と物的証拠探し

ニューヘイヴン地区裁判所は陪審制(素人である市民から選ばれた陪審員が、裁判官から独立して裁判に決定を下す制度)による裁判である。

まず、検事ホラバートが喋る。
「アフリカ人たちはアミスタッド号に乗る以前にスペイン領で奴隷になっていた者たちで、別の植民地への輸送の途中で反乱を起こした」そして、ルイスとモンテスの弁護士は2人が持っていた積み荷記録を証拠として提出した。そこにはアフリカ人たちが奴隷という財産として積みこまれた貨物と書かれていた。
ボールドウィンは反論する。
「アフリカ人たちはスペイン語を理解出来てない。その上、西アフリカの部族で生活している風習がある」アフリカ人たちがどこで生まれたを争点にする理由は、奴隷の売買は奴隷の子供として生まれた者のみ許されるという法律があるからである。彼らがアフリカで生まれた事を証明できれば、奴隷は違法行為と認められ、事件も無罪となる。ただ、物的な証拠はない。

「書類などの証拠を出せ」と言われたボールドウィンはアミスタッド号船内の捜索許可を申請して、ジョッドソンと共に船の調査に出かけた。

そこで、ボールドウィンたちはルイズたちが隠していた積み荷記録を見つけ出す。その内容は、アミスタッド号の取引相手、テコラ号の積み荷記録だった。

テコラ号が奴隷所有を禁止している英国領の西アフリカでアフリカ人たちを不法に売買した証拠を手に入れたボールドウィンは法廷に提出した。

違法なやり方で捕まったアフリカ人たちを奴隷として売買する事が犯罪とされていたので、ルイズたちの主張は崩れた。裁判は無罪に傾いた。

この動きに対して、スペインとアメリカ南部が動く。まだ、南北戦争が始まる前のアメリカであり、南部は奴隷が盛んな場所でもあった。

政治が法廷を動かす

スペインからアメリカ大統領ビューレンに「奴隷の開放を許してはいけません」という親書が届くが無視しても傷は浅い。

問題は、奴隷制度で敵対してるアメリカ南部との関係だった。奴隷制を守る南部はアフリカ人の無罪と開放を許すつもりはないので、このままだと内戦が起こる恐れがある。

かといって、死刑にすれば北部の奴隷廃止論が勢いを増すだろう。ただ、奴隷開放には数年かかるとみていたビューレンは、目先の選挙のために政治工作をする。

まず、裁判をニューヘイヴン地区裁判所から取り上げて、州裁判所の判事1人だけによる決定に置き換える。もちろん、判事も自分の言う事を聞く新しい裁判官に変えていた。

通訳探し

政治権力が敵となった今、ジョッドソンたちは再びアダムズに会い、助言を求める。アダムズは「あのアフリカ人にはどのような物語があると見ているのかね」と聞く。

ジョッドソンは「彼らは西アフリカから連れてこられて奴隷にされようとしたんです」と答えるも、アダムズは「それは物語の外面にすぎない」と返す。

「法廷の裁判官や傍聴人、そして新聞記者に対して、アミスタッド号のアフリカ人たちの人間としての存在を示す。つまり、彼らの過去の生活や苦悩、希望や意思をきちんと伝える事が重要だ。そのためには、彼らと会話しなければいけない。言葉を交わして、打ち解けあって、お互いを理解することだ」

ボールドウィンとジョッドソンはアフリカ人たちが話す言葉を1つも理解出来てなかった。ボールドウィンは牢屋にいるシンケに会い、身振り手振りでコミュニケーションをとろうとする。

賢く洞察力があるシンケは、彼と意思疎通に何とか成功する。やり取りの中で、シンケたちはアフリカ大陸の大西洋岸から来た事を理解した。

西アフリカ出身の黒人を見つけるため、ボールドウィンとジョッドソンは解放奴隷が多い街で探し歩く。

役に立たなかったアフリカ言語学者に、西アフリカでの数の数え方を習った彼らは「1、2、3、4」と数えながら、アフリカ系住民に話しかける。

怪しいやつと見られる中、彼らの西アフリカ語に反応したアフリカ人青年コヴィが英語で話しかけた。彼は英国海軍の水兵で、違法奴隷船から英国艦隊によって救出された過去をもつ。

ボールドウィンとジョッドソンの説明を聞いたコヴィはシンケたちの通訳係を快く引き受ける。コヴィは毎日、シンケのもとに通って、話を聞き出した。

奴隷貿易の実態とシンケの物語

州裁判所の法廷にて、コヴィがシンケから聞き取った事実が明らかになる。

シンケは、西アフリカの森の村で農業をしている部族に生まれ育ちで妻と子供がいる。彼が村人から尊敬される様になった理由は、村に居座ったライオンを倒したからだ。

平和な農村に奴隷狩りを商売にしている別の部族が襲撃してきた。シンケを含む何人かの村人が捕まり、捕虜となった。そして、アフリカ大陸の西の端にあるシエラレオーネ(ライオンの山)の断崖にあるロンボコ城塞に連れてこられる。

ここに着くまで、約2割のアフリカ人が暴力や病気で死んでいった。シンケたちはシエラレオーネから外洋用の大型船に積み込まれ、家畜以下の扱いを受ける。

彼らは裸にされて、手足を鎖の枷でつながれ、船内の倉に押し込まれる待遇を受けた。食事も1日1回で、穀物粉を水で溶いただけの練り物が手渡しで渡されるだけのビタミンがとれない日々が続く。

スペイン領植民地キューバのハバナ港に陸揚げされ、奴隷市場に出品されたシンケたちは競り値をつけられる。そしてテコラ号に乗せられた後、アミスタッド号に移し替えられた。

この証言を聞いた人たちは、言葉を失い沈黙した。だが、検事ホラバートはシンケが経験した物語を嘘だと決めつけて反論する。

そこで、一人しかいない青年裁判官は奴隷密貿易の実態に詳しい英国艦隊の艦長を呼んだ。

艦長は「シンケが語った物語は信頼できます。我らの艦隊はアフリカ西海岸からカリブ海にいたる場所で、奴隷の密貿易船の追跡や逮捕を任務としてます。奴隷にされた他のアフリカ人たちの話を聞くとシンケと同じような目にあっていたそうです。」と言う。

ホラバートは「テコラ号の船荷記録には、西アフリカから奴隷としてアフリカ人を乗せた記録がない」と指摘する。

艦長は「彼らは積み荷の一つとして記録されてます。積み荷の個数と総重量が記録してあるでしょう。それが、シンケたちアフリカ人なのです。奴隷やアフリカ人とは記載しません」と反論する。

この証言に関連して、コヴィはシンケから聞いた事実を発言する。「テコラの船長はアフリカで買い入れた奴隷の50人を鎖につなぎ、海に放り込んで殺した」という衝撃的な内容だった。

ホラバートはすぐに反論する。「そんなバカな。せっかく買った商品の半数を海に投げ捨てる奴隷商人なんていない。それに儲からないではないか」

艦長はホラバートの言い分を打ち砕く様に言う。「いえ、奴隷の多数あるいは全員を海に投げ捨てる事はあります。理由は、途中でアフリカ人たちに与える食料が不足する事が判明したからです。また、口減らしをしても莫大な利益は出ます」

ホラバートは「船荷記録にはそんな記録がない」と必死に食い下がる。

艦長は「いいえ、あります。この品目の船荷は途中で数が半分に減り、総重量も半分以下に激減しているでしょう。これこそ、半数以上の奴隷を海に投げ入れて沈めたという証明なのです」と完全に止めをさした。

判決の前日、青年裁判官は教会の礼拝堂を訪れていた。彼はビューレンから、政府に有利な判決(アフリカ人の有罪判決)をする様圧力を受けてました。出世のためには絶対しなければいけません。

しかし、法廷で明らかになった事実に衝撃を受けた彼は、アフリカ人の無罪判決をする覚悟を固めるため、神に祈りにきたのだ。

翌日、判決を出した。スペインやアメリカ海軍の申し立てが真っ当である事を認めるも、シンケたちアフリカ人たちがカリブ海もスペイン植民地で奴隷となっていればという前提条件を挙げる。

その条件を証明したルイスとモンテスの証言が嘘である事が明らかだ。青年裁判官はアフリカ人の無実と反乱の正当防衛を認め、彼らの解放を求めた。そして、嘘の証言と奴隷貿易の加担の罪により、ルイスとモンテスを逮捕すると判定した。

アメリカ国内の権力闘争

これで一件落着といいたいところだが、ビューレンがその判決に異議を唱えた。彼は州裁判所の判決を不当として、連邦最高裁判所に上訴した。

なぜこんな事をしたかというと、選挙の再選を狙うビューレンの元に南部特権階級の議員が現れてこう言い放った。

「この判決がまかり通るのなら、南部はアメリカから離脱して、奴隷制が守られる独立国家を造る。北部に対して、宣戦布告する」

南部が敵になり、アメリカを分裂させた大統領として汚名が残る事は断じてできないビューレンは南部の脅しに屈してしまった。

判決はタパンとジョッドソンの立場を浮き彫りにもした。

タパンは「勝訴は歓迎できないね。奴隷制の醜さや不当性に対する反感や批判が増えて、奴隷解放論を盛り上げるためには、シンケたちは殉教者になるべきだったんだ」と発言した。

それに対して、ジョッドソンは「あなたは、奴隷制を失くそうと主張してますが、シンケたちを見殺しています。目の前で苦しむ人たちを救う意識が弱い」と非難する。

お互い喧嘩になり、ジョッドソンは馬車を降りて、タパンと決別した。

勝訴に喜んでいたボールドウィンは、またも愕然とした。今回は冷静さを保ち、シンケたちに謝罪した。シンケはアメリカの司法制度に怒り狂い、不信を示した。

ボールドウィンは最高裁での勝訴が難しい事を知っていた。9人の判事たちの内、7人は農場経営でアフリカ系奴隷を使用している企業家だったので、自分の経営を揺るがす判決を下す事はしないだろう。

絶望的な状況を解決するため、ボールドウィンはアダムズを頼る。

アダムズとシンケ

アメリカの司法制度に不信感を抱いたシンケをボールドウィンはうまく説得できなかった。そんな時、アダムズが現れた。彼はシンケと面談するため、檻の中に入った。

渋る看守を押し切ったアダムズはシンケに共和制の仕組みを説明する。国のリーダーは度々交代すること。そして、裁判にはいくつもの段階がある事ことを。

だが、リーダーが死後も権威が守られる部族社会で暮らしてきたシンケは納得できなかった。

次にアダムズは「困難にぶつかり、知恵と勇気が必要になった時どうすればいいか?」とシンケに尋ねる。シンケは「自分たちを生み出してくれた祖先の魂に語り掛けて対話する」と答えた。

アダムズは「そうか、祖先か。それでは建国の父たちの理想に戻ろう」と語る。彼は最後の弁論の作戦をひらめく。檻から出る時、彼はシンケの知恵と勇気を称賛した。

アダムズの問いかけ

法廷でアダムズは判事全員に問いかける。彼は、州裁判所までのボールドウィンの弁論は完璧で、事件自体の弁論としては付け加える事はないと言った。

その代わり、彼が問いかけたのはこの事件に対する、アメリカ司法の立ち位置だ。

「事件は単純で簡単なものだ。だが、アメリカに加えスペインをも巻き込んだ政治判断によって混迷を極めている。そして、ビューレン大統領は南部の反乱に恐れをなして、単純で分かりやすい判決を恐れている。
彼が望むアメリカ司法は何か?それは、アメリカ国務長官あてのイザベル女王の手紙にあるとおりに、権力者であれば13歳の少女(イザベル女王)がおもちゃの人形のように扱う事ができる司法である。
それはアメリカが求める司法なのか?そんなものでしかないなら」

そして、法廷に壁面に掲げてある合衆国独立宣言の所まで行ってある文を指さす。

人間は生得的に自由で平等である。自由のために戦う権利がある

アダムズは「この文がまったくの空文、空絵事でしかない。そんな事でいいのか。もし、シンケが白人で英国に支配をうけて言いなりされる事に対し、反乱を起こしたなら、彼は英雄として褒められるだろう。物語にもなり、教育で子供たちに英雄として教えられるに違いない」と続ける。

「ところが、同じ服従を拒み自由を求める戦いに立ち上がったのに、今の彼は生死の判決を待つばかりではないか。先日、シンケと面談した時、困難に直面し、判断に迷う時はどうしたらいいかと尋ねた。すると彼は、祖先の魂を呼び起こして対話すると答えた。」

言い終えたアダムズは建国の父の像(トーマス・ジェファーソン、ジョージ・ワシントン、ジョン・アダムズ)に近づき訴えた。

「独立宣言と建国の父たちの精神に立ち戻る事を、自分たちの弱さと考えてはならない。この原点に戻って、事件を判断するべきだ。今直面しているのは、独立戦争の最後の局面である。この戦いに勝利するために内戦が必要なら、内戦よ来たれ」

かつて大統領だったクインシー・アダムズの問いかけに、9人の判事の内、8人がアフリカ人は無罪の判断をした。

アミスタッドのアフリカ人たちは、西アフリカから違法に拉致されてきた人たちであって、彼らを奴隷化しようとする人たちに対して、自由のために戦う権利を持つ。

彼らをすぐに解放し、望む者たちは故郷に送り返すものという判決内容だった。

判決後の結末

シンケはアダムズと固く握手をした。そして、ボールドウィンと固い抱擁を交えて、自身の宝物であるライオンの牙(村を救うために殺したライオンの口から抜き取った牙)を渡した。

そして、彼らは故郷に無事戻る事ができた。村に帰ってみると、村は破壊されて消えていた。奴隷狩りを仕事にしている好戦的な部族に襲われた事が原因なのか。その後、彼らの消息はわからないままとなった。

そして、西アフリカ海岸の奴隷貿易の拠点ロンボコ要塞が、英国艦隊の砲撃によって全て破壊された。

 

最後に

いかかでしたでしょうか。

この映画はハッピーエンドでないのが辛いですよね。ですが、実際にあった事件を題材にしている物語なんです。世界経済の無慈悲さや歴史の重みが伝わってきます。

シンケの勇気やジョッドソンたちの助力、ボールドウィンの専門知識と行動力がなければ、裁判で無罪を勝ち取る事が出来ずに死刑になっていたでしょう。また、アダムズの問いかけがなければ逆転有罪になってました。

最高裁の判事たちは権力者であり、権力をもつ人ほど権力に弱いことを知っていたアダムズは、アメリカ独立宣言を利用しました。また、彼の父ジョン・アダムズと彼自身の影響力も活用するなど、したたかな政治手腕を発揮してます。

ちなみにビューレン大統領は選挙で落選しました。自己保身で動いたことが原因ですね。南部も孤立していき、南北戦争を引き起こします。

黒人の市民権が社会で認められるのは、1960年代の公民権闘争を経て、さらに20年かかります。今でも、有色人種の差別は根強く残っています。

この映画は、19世紀半ばに実際起こった事件の歴史を映像で伝え、今を生きるわたしたちに問いかけてると感じました。

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