スピルバーグ監督作品「1941」が失敗作と呼ばれた理由を徹底解説

こんにちは。福です。
本日は、稀代の映画監督スピルバーグ氏の作品の中でも、失敗作と言われる「1941」を解説していきます。

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スピルバーグ監督作品「1941」のあらすじを解説

  • 公    開:1979年12月13日
  • 監    督:スティーブン・スピルバーグ
  • 原    案:ロバート・ゼメキス
  • 世界興業収入:$92,455,742

1941年12月8日に旧大日本帝国(日本)がアメリカ合衆国ハワイ州パールハーバー沖を攻撃した真珠湾攻撃のその後を描いた作品です

映画のオープニングは、そのハワイのパールハーバーでの日本軍艦が海面から浮上するシーンです。そして、スピルバーグ監督の大ヒット作品「ジョーズ」のパロディーとして描かれます。

真珠湾攻撃は日本の歴史の授業でも習う有名な出来事ですが、その後アメリカで起きた事件「ロサンゼルスの戦い」は日本ではあまり知られていません。

「ロサンゼルスの戦い」とは一体何だったのでしょう?

 

真珠湾攻撃を受けたアメリカは、日本がアメリカ本土への攻撃も仕掛けてくるのではと警戒を強めていました。

そして、日本の軍艦がハワイからアメリカ本土に移動している情報を手にしたアメリカ軍はさらに警戒を強めます。

アメリカ軍は防空レーダーで不審な飛行物体を発見し、それを日本空軍の空襲と勘違いしてしまいました。

ロサンゼルス州のハリウッドにある、アメリカ軍人が集まるバーにもその情報が伝わり、大慌てするというドタバタコメディー作品です。

 

豪華俳優陣の紹介

ダン・エイクロイド(フランク・トゥリー軍曹役)

言わずと知れた名コメディアンとして有名なダン・エイクロイドです。

ダン・エイクロイドは苦労人で、13歳の頃から様々なバイトを掛け持ちしていたそうです。

そして、中学時代からやビートルズにハマり、ジャズも聴くようになります。

バイトだけでなくバンドも掛け持ちしていました。

 

カールトン大学に進学し、社会学や犯罪学を学ぶも中退してしまいます。その後トロントにある「セカンド・シティ・ワークショップ」で本格的にコメディの勉強をスタートします。

同作品でも共演しているジョン・べルーシとはこの「セカンド・シティ・ワークショップ」で知り合い親友になりました。

また、コメディアンだけでなく音楽好きなら知っている「ハードロック・カフェ」や「ハウス・オブ・ブルース」、ドクロのボトルが印象的な「クリスタルヘッド・ウォッカ」などの事業に出資して経営者としても成功を収めています。

そんなダン・エイクロイド演じるフランク・トゥリー軍曹として愛国者を熱演しています。

ジョン・べルーシ(ワイルド・ビル・ケルソー大尉役)

先ほど紹介したダン・エイクロイドと親友のジョン・べルーシもまた大学を中退後に「セカンド・シティ・ワークショップ」に入っています。

そして、ジョン・ベルシーはダン・エイクロイドと共に「サタデー・ナイト・ライブ」に出演し「ブルース・ブラザーズ」を結成し映画化までする人気となりました。

また、日本の吉祥寺に来て日本人バンドとセッションをするなど親日家の一面もあります。

そんなジョン・べルーシ演じるワイルド・ビル・ケルソー大尉は、錯乱気味なパイロットとして登場し、コメディアンとして鍛えた演技力が冴え渡っています。

ネッド・ビーティ(ウォード・ダグラス役)

ネッド・ビーティは名俳優として有名ですね。

シドニー・ルメット監督作品「ネットワーク」では、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、エミー賞にも2度、ゴールデン・グローブ賞にもノミネートされた実績があります。

そして、リバーラン国際映画祭にてマスター・オブ・シネマ・アワードを受賞しています。この賞はリバーラン国際映画祭では最高の名誉であるとされています。

そんなネッド・ビーティ演じるウォード・ダグラスはアメリカ軍に協力的な紳士な役所なのですが、ダグラスの家の前に広がる海に突如軍艦が現れた時の慌てようは爆笑必死です。

マーレイ・ハミルトン(クロード・クラム)

マーレイ・ハミルトンは演技に興味はあったものの、演劇の学校などには行かず、まずは「ワーナー・ブラザース・スタジオ」にメッセンジャーとして就職します。

そして、「ワーナー・ブラザース・スタジオ」の映画のエキストラとして役者人生をスタートし下積み時代を経て俳優となった実力派です。

そんなマーレイ・ハミルトン演じるクロード・クラムは観覧車の上で日本軍が攻めてこないか監視する役どころでした。

マーレイ・ハミルトンは実直な役柄を演じることが多いだけに、「1941」でのはっちゃけた演技は見どころの一つです。

三船敏郎(アキロー・ミタムラ中佐)

三船敏郎は、日本で有名な映画俳優ですね。

また、黒澤映画には欠かせない俳優と言っても過言ではないでしょう。

しかし、三船敏郎はあまり海外映画との相性が良くなかった感は否めません。

 

まず、ジョージ・ルーカスの代表作品「スターウォーズ」への出演を断っています。しかし、「スターウォーズ」が大ヒットし、後悔します。

そんな三船敏郎の元に依頼が来たのがこの「1941」でした。ジョージ・ルーカスと親交もあったスピルバーグ監督の作品ということもあり、二つ返事で出演するとまさかの興業的には失敗と言われる作品になってしまいました。

そして、「ベストキッド」の出演依頼が来るも辞退し、「ベストキッド」は大ヒット。

そんな三船敏郎が演じるアキロー・ミタムラ中佐は、その存在感は十分に発揮しながらも笑いどころは外さない名演技が光ります。

 

なぜ「1941」は失敗作と言われたのか?

多くの名作を生み出したスティーブン・スピルバーグが監督をして、なぜ失敗作となってしまったのか?

その理由を解説していきます。

愛国心のあるアメリカ人、そして第二次世界大戦の悲しみを知る世代に受け入れられなかった

この作品は、全体を通してコメディタッチで描かれています。

しかし、公開された年は1979年。

第二次世界大戦が終わってから34年の月日は流れていましたが、いまだに世界中の人々の頭の中には苦い思い出として残っている「戦争」を、面白おかしく表現するには時間が足りなかったという印象を受けます。

そして、国民を自身の命を賭して守ろうとしていたアメリカ軍を滑稽に見えるように描いてしまいました。

 

スピルバーグ監督は、純粋な気持ちを持ち、悲惨な出来事を風化させてはいけないと感じていたに違いありません。

そんな重苦しい世界観の作品で表現し誰が目を向けるのでしょうか?

もしかしたら、そういった重厚な世界観の方が興行的には盛り上がり名作になり得たかもしれません。

しかし、スピルバーグ作品の根元は「すべての人を楽しませる」こと、これに尽きると思います。

楽しい気分を味わいながら、後に何も残らない作品。これこそがこの「1941」の最大の醍醐味だったのではないでしょうか?

ジョン・ウェインやチャールトン・ヘストンに出演を断られたスピルバーグ監督

スピルバーグ監督は、当時タカ派(戦争や武力を行使しても解決する事を望む行動原理を持つ人々の集まり)の代表格とされていたジョン・ウェインやチャールトン・ヘストンに出演依頼をしました。

しかし、彼らはコメディタッチにアメリカ軍を描くことに躊躇いを隠せずに出演を断りました。

 

アメリカでは、強さこそ正義という風潮が強くアメリカ軍は強さの象徴でもあります。

そして戦勝国であるアメリカ合衆国を面白おかしく描く作品に出演することに対して抵抗感のある俳優は多かったのでしょう。

日本で国民的に人気なアニメ「ドラえもん」がアメリカでは決して放映されないのは、主人公がいつまで経っても成長せず、強くならないためだというのは有名な話です。

そういった風潮もあいまって、この作品を評価するアメリカ人は少なかったと推測します。

 

まとめ

1940年代のアメリカが好きだったスピルバーグ監督が作った「1941」は、一見すると何を伝えたいのか分からない作品ですが、これは暗に「戦争は悲しく愚かな、そして何も残らない虚しいもの」である事を伝えたかったのではないかと思います。

シンプルにシリアスにドキュメントタッチで戦争映画を作る事は、逆に言えば簡単なのかもしれません。

 

しかし、スピルバーグ監督が天才と言われる理由は「1941」のようにブラックジョークを交えドタバタなコメディーとして、しかも何も残らないという虚しさを実際に戦争経験の無い人に伝えているところなのでしょう。

今でも、「1941」は失敗作として語られることが多い作品ですが、このメッセージ性が読み取れるとさらに面白さが増します。

 

まずは、前知識なしに笑いながら見ていただき、そしてこの記事を読んで、歴史や戦争を学びもう一度見て見てください。

すると、戦争を体験していなくても虚無感に襲われると思います。スピルバーグ監督の優しいところは、実体験してしまうとトラウマになるほどの恐怖を味わわずに、何も残らない虚無感を体験させてくれる作品に仕上げているところです。

 

ただ批判することは簡単です。しかし、本当の意味で事実を受け止め、噛み砕き、飲み込み、悩み、考え、理解する。そして、真実にたどり着く事が出来なければ本当の幸せを手に入れることは出来ないでしょう。

確かに、映画単体として見れば「何を伝えたかったの?」となる作品かもしれません。
しかし、もっと深く歴史や文化を学ぶ事でただの「駄作」ではない、本当の名作として触れることが出来る作品です。
「1941」は、Huluで見られます。(2020年8月現在)