こんにちは、福です。
今日ご紹介するのはジェイラーズ(Jailers)という、刑務所を舞台としたドラマです。最近の海外ドラマはアメリカ、韓国、中国だけではないのです。今回ドラマは、ブラジルから届きました。
ジェイラーズ(Jailers)とは
暴力と脱走、謀略と買収、武器の取引や麻薬の密売。更生施設であるにも関わらず、なんでもありの最も危険な場所と言われているのがブラジルの男性刑務所です。そこで繰り広げられる様々な問題に立ち向かうのが、主人公で看守のアドリアーノです。
彼は刑務所内で受刑者たちと闘うだけでなく、家族に迫る危機にも立ち向かわなければなりません。
このドラマは、実際に刑務所で働いていた看守たちの話に基づいて作られた、リアルなブラジル刑務所の姿を描いています。
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舞台となるブラジルの刑務所
ブラジルは犯罪が多い国として有名ですが、それだけに刑務所に収容されている人たちもたくさんいます。そんな、ブラジルの刑務所事情について調べてみました。
刑務所の数と受刑者数
ブラジルには、刑務所が約1,000か所あると言われています。収容されている受刑者は72万人ほどいます。これは、アメリカ、中国に次いで3番目に多い数になります。
一方で、人口10万人あたりの受刑者数(受刑者率)でいうと348人で、人口の0.35%になります。これは統計が取れている世界223か国中、23位になります。
参考までに、日本の受刑者数は約48,800人で41位、受刑者率は0.039%ですので、ブラジルよりひと桁少ない比率になります。
これも余談ですが、世界でもっとも受刑者が少ないのはサンマリノで、わずか2人という少なさです。ただし、総人口は33,000人なのであまり参考にならないかもしれません。
国名 | 受刑者数順位 | 受刑者数 | 受刑者率(人口10万人当たりの受刑者) | 受刑者率順位 |
USA | 1 | 2,121,600 | 655 | 1 |
中国 | 2 | 1,700,000 | 120 | 131 |
ブラジル | 3 | 746,532 | 348 | 23 |
ロシア | 4 | 523,928 | 363 | 21 |
インド | 5 | 466,084 | 34 | 212 |
日本 | 41 | 48,802 | 39 | 206 |
サンマリノ | 223 | 2 | 6 | 223 |
それぞれの国によって事情が異なりますが、ブラジルが犯罪の多さに比べて受刑者率が思ったより多くないのは、全員を収容するだけの刑務所がない、という事情があるようです。それだけ、逮捕できていない犯罪者が街の中にいるということです。
ブラジル全国の刑務所収容可能人数は42万人とのことなので、すでに定員の約2倍の受刑者が収容されていることになります。もっとも過密なのが北部にあるアマゾネス州で、収容率が480%を超えています。つまり、定員の約5倍の収容率になっています。
ブラジル政府によると、収容している受刑者のうち、約95%が男性とのことです。そんな荒くれ男たちが密集しているブラジルの刑務所が、「ジェイラーズ」の舞台なのです。
刑務所での暴動や犯罪
このような密集状態に加えて、もうひとつ大きな問題があります。それは、刑務所内での暴動です。毎年のように数十人単位で受刑者が死亡したり、脱獄したりということが繰り返されています。
ブラジル北部のアマゾネス州マナウスにあるアニジオ・ジョビン刑務所では、2017年にギャング同士の抗争から56人が死亡、2019年にも15人の囚人が死亡する抗争が発生しています。
刑務所内で暴動がおきる原因として、街中で対立しているギャング同士が区分されることなく同じ場所に収監されることが挙げられています。抗争がそのまま刑務所の中にも持ち込まれて、絶えることなく争いが続いているわけです。
また、刑務所内での出来事では済まず、脱獄も発生しています。
ブラジル北東部のパライバ州では2018年1月に、高度な警備体制がある刑務所を武装集団が襲撃して、受刑者92人を脱獄させるという事件が起きています。仲間の3人を脱獄させるために襲撃したようです。
このとき、警官1人が殺され、逃げた92人のうち再逮捕できたのは半分以下の41人だけだったそうです。
逃げた受刑者は再逮捕されておらず、逃げてしまった人たちがたくさん街中にひそんでいるわけです。まさに、犯罪の連鎖です。
ところで、いくらギャング同士の抗争が激しいといっても、武器がなかったらここまでにはならないと思いませんか? それが、武器が大量にあるのです。外部から頻繁に持ち込まれているようです。
ある刑務所では、毎週行われる監察のたびに、数十丁の拳銃やナイフが見つかるといわれています。さらに、携帯電話も持ち込まれており、外部と内部で連絡を取り合いながら、暴動や脱獄の作戦を練り、実行している実態があります。
ギャングだけではありません。気に入らない受刑者がいるとその人を複数人で袋叩きにしたり、殺害したりということが行われています。男性、女性を問わず、受刑者や看守までもが性犯罪に巻き込まれるケースもあるようです。
武器が持ち込めるなら、当然麻薬も持ち込まれます。「死のゲートレード」という麻薬入りカクテルを飲み、薬物の過剰摂取により命を落としたというニュースもありました。
では、看守たちはどうして犯罪を止めることができないのでしょうか? そこにはもう一つの闇が存在しています。危険な仕事のわりに給料が安く、仕事に対するモチベーションが低いようです。
正義感だけで仕事ができるわけではないので、受刑者への差し入れに隠された武器を見て見ぬふりをして、代償としてお金を受け取っているような看守までいるのです。あるいは、麻薬を受刑者に売ったり、逆に受刑者から買ったりということも起きているのです。
まさに、だれが見方でだれが敵なのか、だれが正義でだれが悪なのか、カオスな状態です。
刑務所内でのくらし
刑務所のなかでは朝と夕方の点呼(人数確認)、食事、シャワー、労役や自由時間など、だいたいどこの国でも同じようなことが行われています。よく言われるように、食事はけしていいものが出るわけではありません。
ブラジルの場合、外では棄てるような腐敗したものまで料理用に持ち込まれ、食べられる部分だけを切ったり、洗ったりして調理されているようです。衛生的ではないので、当然病気になることもあります。
また、閉め切った空間なので、むわっとした空気に包まれているようです。取材のため入ったカメラマンが、メガネが曇ったという証言をしています。
そんな刑務所の中ですが、パーティがあったり、宗教行事は行われています。ブラジルはキリスト教の国なので、イースターやサンクスギビングなどの行事は行われているそうです。
あるとき、パーティ用のクッキーを受刑者自らが配りたいと看守に申し出たところ、看守からだめだと言われ、それが原因で暴動が起きかけた、なんてこともあったそうです。ちょっとした娯楽でも、受刑者にとってはストレス発散なんでしょう。
社会復帰にむけた活動
刑務所というのは、犯罪者を閉じ込めておくための場所ではなく、社会復帰させるための更生施設です。いろいろな取り組みがされています。
恩赦
クリスマスの時期になると、模範囚を解放する、または一時帰宅させて家族と過ごさせるという制度があります。ブラジルの制度では以下の3つに受刑者を区分しています。
- 懲役刑: 収監されて看守の監視のもとで受刑する
- 保護観察: 刑務所以外の宿舎、または自宅において観察しながら更生させる
- 準保護観察: 夜だけ刑務所にもどり、日中は外で仕事をする
準保護観察に置かれている受刑者は、年5回まで仮出所の申請を行うことができます。通常は、イースターやクリスマスなどのキリスト教行事の日、あるいは母の日などに利用し、家族と一緒に過ごすようです。
当然、この仮出所中に犯罪を犯せば、次からの申請ができなくなるだけでなく、準保護観察という立場から懲役刑に変わります。
これとは別に、クリスマス恩赦というものがあります。これは仮出所ではなく、放免されて自由の身となります。日頃の刑務所内での態度がよく、刑期の1/4以上を終えている囚人が対象です。もちろん、麻薬犯罪や殺人犯、レイプ犯など重犯罪者は恩赦の対象にはなりません。
社会貢献
ちょっと変わった更生プログラムがあります。自転車をこいで発電し、電力供給不足を少しでも減らすという活動です。
受刑たちは、刑務所内に設置された自転車発電機を24時間交代でこぎ続けます。発電した電気で近隣地域の電灯を灯します。これによって、こんな自分でも地域、社会に貢献できるんだ、という気持ちをもたせ、更生の自信をつけさせるのだそうです。
また、こいだ時間だけ刑期が短くなるのだそうで、自転車の前には順番待ちの列ができているとのことです。
変わりつつある刑務所
ブラジルはトランスジェンダーが多いと言われています。いろいろな理由で犯罪を犯し、一生を刑務所の中で罪をつぐなう受刑者のなかにも少なからずこのような方がいます。
いままでの刑務所ではゲイやレズ、レディボーイといった人たちは、嫌悪の対象となり、孤立したり、迫害をうけてきたようです。
しかし、昨今の人種差別廃止や人権擁護の観点から、LGBTの受刑者に対する扱いが変わりつつあります。ブラジルでは、刑務所の15%にLGBT者のための施設が用意されています。
ブラジル北東部にあるセアラ州には、GBT受刑者専用の刑務所ができました。レズビアンのLが抜けていますが、まずは男性受刑者が多いので、そちらを先に設置したようです。現在150人が収容されていますが、200人まで収容できます。
この刑務所内では、髪を長くして女性らしい恰好をしたり、女性の名前をつけることも許されています。
また、女性(トランスジェンダー含む)受刑者の中には、ファッションを楽しみたい人もいます。無味乾燥な生活を強いられている受刑者ですが、喝さいを浴びるときがあります。それが、「ファッションショー」や「ミスコン」です。
さいごに
いかがでしょうか? 背景となる刑務所のことがわかると、ドラマがいっそう面白くなると思います。暴力的なシーンがあってちょっと怖いけど、R指定はないので家族でいっしょに楽しんでください。
注)記事の内容は2020年4月時点での情報をもとに作成しています。